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DATE : 2019.02.14

乳がんにおける放射線治療の方法や副作用について

乳房温存手術後には放射線治療がセットで行われ、乳房切除手術の場合でも、手術後に放射線治療が行われることがあります。放射線治療とは具体的にどんなものなのか、どのような効果と副作用があるのかについて日本乳癌学会乳腺専門医の監修のもと詳しく解説します。

監修:湘南記念病院乳がんセンターセンター長 土井卓子先生  

放射線治療とは

乳房温存手術の場合は、手術後に放射線治療がセットで行われます。乳房切除手術の場合でも、再発の可能性が高いと判断されれば放射線治療に進みます。


放射線治療とは


そもそも放射線とは自然界にも存在するもので、私たちは普段の生活の中でも少量の放射線を浴びていることをご存じでしょうか。放射線には、人体を通過できるという特徴があり、放射線が体を通過するとき、細胞内の遺伝子(DNA)にダメージを与えます。このとき遺伝子がダメージを受けた細胞は、増殖することができなくなり死滅します。

放射線はがん細胞も正常細胞も通過しますが、がん細胞のほうが正常細胞よりも放射線によるダメージを受けやすいことが分かっています。また、正常細胞はダメージを受けても回復しやすいため、がん細胞に効率よくアプローチする方法として放射線治療が用いられているのです。放射線治療では、レントゲンなどで使われるエックス線よりはるかに高いエネルギーを使用します。


乳がんにおける放射線治療とは

乳がんでの放射線治療は、主にリニアックという治療装置を使って行われます。万一がんが進行して手術が難しいと判断されていた場合でも、薬物治療と放射線治療でがんが小さくなれば、手術が可能になるケースもあるのです。

乳がんの手術後では、とくに乳房温存手術とセットで行うことが多く、温存した乳房全体に放射線を照射します。手術で取り切れなかったがん細胞にダメージを与え、再発を防ぐのが目的です。乳房温存手術後に放射線治療を行った人は行わなかった人よりも乳房内再発率が3分の1まで減ることが分かっています。

乳房切除手術の場合、放射線治療を受けたほうが良いかどうかは、しこりの大きさや数、リンパ節への転移の有無によって判断されるのが一般的です。胸壁やリンパ節からの再発の危険性が高い場合に、化学療法やホルモン療法に加えて行われます。

また、骨や脳に遠隔転移した場合も、転移した場所への放射線治療が行われます。


乳がんの放射線治療にかかる費用一例


乳房温存手術後、25回放射線治療を行った場合(週5回、5週間)にかかる費用は総額でおよそ47~70万円で、3割負担の場合、実際に支払う医療費は14~21万円程度となります。毎回の支払額は5千円~8千円(初回はプラス1万円~1万6千円)です。


新たな放射線治療

まだ治療法が十分に確立されているとはいえませんが、がん摘出部周辺に放射線照射範囲を絞って通常よりも高い量の放射線を1回で照射し、治療回数を減らす方法が検討されています。 そのほか、陽子線や重粒子線という特殊な放射線を使った治療がいろいろながんに対して行われるようになってきました。乳がんについてはこれらの治療が行える施設は限られており、保険は適用されません。
 

乳がんにおける放射線治療の方法


乳房温存手術の場合は、放射線治療をセットで行います。乳房切除手術を行った場合は、ひとりひとりの状態によって放射線治療を採用するケースがあります。

[乳房温存手術を行った場合]

乳房全体への放射線照射に加えて、ワキのリンパ節に転移があった場合は鎖骨上窩(じょうか)(首の付け根、鎖骨の上の部分)にも放射線を照射することがあります。
乳房全体への照射は1回1~3分程度で週5回、5週間かけて行うのが標準治療です。外来に通って治療を受けるのが一般的で、毎日続けて照射することによりがん細胞が次第に小さくなっていきます。途中で間があくと効果が薄れてしまうので、継続して治療を受ける必要があります。

[乳房切除手術を行った場合]

再発の危険性が高い場合、胸壁や鎖骨上窩(首の付け根)放射線治療を行います。しこりの大きさが5cm以上だったり、ワキのリンパ節に転移(特に4個以上)があったりするケースがこれにあたります。乳房温存手術を受けた場合と同様、1回1~3分程度の照射を週5回、5週間かけて行うのが標準治療です。

放射線治療を行うと皮膚が弱くなったり伸びにくくなったりするため、放射線治療が必要な場合、人工の乳房を使った再建が難しいこともあります。エキスパンダーが入っている状態では放射線が均一に照射できないため、照射はおすすめしません。インプラントに入れ替えた後は照射を行うことが可能ですが、再建乳房が次第に変形したり、皮膚が傷んでインプラントが露出してしまったりするような危険性もあり、注意が必要です。
自家組織を使った再建では照射が可能な場合が多いですが、主治医と相談してください。
 

放射線治療の副作用について

命にかかわるような問題はまずありませんが、放射線治療には副作用があります。大きく分けて、急性の副作用と慢性の副作用の二種類です。


急性の副作用

放射線治療中と終了後まもなく現れる副作用のことを指します。

-放射線を当てているとき
疲れやだるさを感じることがありますが、日常生活を送りながら放射線治療を行える人がほとんどです。放射線は体に残らないので、帰宅後に乳幼児を抱いても安全です。

-放射線治療を開始して3~4週間
放射線を照射した部位が日焼けのように赤くなり、ヒリヒリしたりかゆくなったりすることがあります。乳房温存手術をした人よりも、乳房切除手術をした人のほうが放射線を照射する範囲が広いので、皮膚への副作用が強く現れることがあります。場合によっては皮がむけたり、水ぶくれのようになったりすることもありますが、治療が終了すれば、その後2週間くらいで症状は良くなります。

ほかに皮膚に現れる症状としては、皮膚が黒ずんだり、かさかさしたり、手で触れると暖かく感じたりすることがあります。乳房温存手術後の放射線治療では、乳房全体が少し腫れて硬くなったり、痛んだりすることがありますが、回復する場合が多いです。

-首の付け根(鎖骨上窩)にも照射した場合
食道の一部にも放射線が当たって、のどの違和感や、ものを飲み込むときに痛みを感じることがあります。特に左胸を手術したときにこの副作用が現れやすいですが、一時的なものです。


倦怠感があるときは、できるだけ無理をせず休息をとりましょう。
皮膚に赤みやかゆみがあっても、皮膚をかいたり、自己判断で薬を塗ったりすることは避けて医師に相談します。放射線を照射している部分の皮膚は弱くなっているので、絆創膏や湿布なども厳禁。お風呂で体を洗うときも、強くこすらないように気をつけてください。
鎖骨上窩にも照射する場合は食道に炎症が起こるので、刺激の強いもの(アルコールや香辛料など)や熱いものの摂取は避けましょう。


慢性の副作用

放射線治療を終了して数か月経ってからみられる副作用を、慢性の副作用といいます。重大な副作用の頻度は少なくあまり心配はいりませんが、注意が必要なケースもあります。

-肺炎
治療後数か月以内に100人に1人くらいの割合で放射線照射による肺炎がみられます。症状としては咳や微熱が続くことや、胸の痛み、息苦しさなどです。このような症状が出る場合は、できれば治療を行った病院を受診し、放射線治療を行った旨を伝えましょう。

-皮膚の変化
放射線が当たった部分の皮膚は、汗や皮脂の分泌が減るので治療していない側よりも皮膚の温度が上がったり、皮膚が乾燥してかゆくなったりすることがあります。赤みがなくなったら、保湿を心がけましょう。保湿によってかゆみの予防や皮膚の免疫力を高めることができます。

また、母乳を作る機能が失われるので、放射線治療後に出産をした場合は、放射線治療をした側の乳房からは母乳が出にくくなり、成分も少し変化すると言われています。反対側の乳房からは問題なく授乳が可能です。


放射線治療による「二次がん」

放射線治療を行った人は、乳がんの経験がない人に比べると、乳がんの治療が原因となる「二次がん」を生じる割合が高いことが知られています。しかしこれは、放射線治療が原因とは言い切れません。遺伝や環境因子、化学療法などさまざまな要素が影響すると考えられます。また、二次がんのリスクが増加するとしても、放射線治療によるメリットのほうがリスクを上回ると考えられています。


放射線に対して漠然としたマイナスイメージを抱いているために、放射線治療を怖いと感じる人もいるかもしれません。しかし実際のところ、放射線治療は比較的副作用が少なく、乳がんの再発予防に有効な治療法です。医師から放射線治療が必要と判断された場合は、速やかに治療に進みましょう。

PROFILE

【監修】土井卓子先生TAKAKO DOI

湘南記念病院乳がんセンターセンター長
横浜市立大学医学部卒業後、医師として一貫して乳腺外科分野で経験を積み、乳がん及び乳腺分野での治療に従事。湘南記念病院乳がんセンター長として、医療者だけでなく体験者コーディネーターなどを組み込んだ乳がん治療チームを組織、形成外科と連携した乳房再建などの総合的な乳腺治療を目指す。横浜市立大学医学部臨床教授、日本乳癌学会乳腺専門医、日本外科学会専門医、日本外科学会指導医、日本消化器外科学会認定医、日本消化器病学会専門医、マンモグラフィ読影認定医。
http://www.syonankinenhp.or.jp/nyugan/

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