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HEALTHCARE : 健康

DATE : 2019.04.25

身体を動かせば、心も動き始める。 キャンサーフィットネス体験・後編

がん患者・経験者の運動(フィットネス)を支援する団体「キャンサーフィットネス」。前編では、乳がんを経験したファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんが「キャンサーフィットネス」考案のリハビリエクササイズに挑戦しました。

後編では、キャンサーフィットネス代表理事・広瀬真奈美さんと対談。活動を始めたきっかけやプログラムの内容、参加者の反応、今後の展望などをお伺いしました。

対談したのは……


ファイナンシャルプランナー 黒田尚子さん
各種セミナーや講演、新聞・書籍・雑誌・Webサイト上での執筆、個人相談など、幅広く活動。がんをはじめ、病気に対する経済的備えの重要性を訴えている。2009年12月の乳がん告知を受け、2011年3月に乳がん体験者コーディネーター資格を取得。


キャンサーフィットネス代表理事 広瀬真奈美さん
米国MFL認定インストラクター(がん患者のための運動療法)、日本フィットネス協会認定インストラクター。2009年に乳がんの告知を受ける。後遺症や副作用に悩み、試行錯誤しながら自身の身体のケアを考えた経験から2014年に一般社団法人キャンサーフィットネスを設立。がん患者・経験者に運動の楽しさと大切さを広めている。

身体の不調をなんとかしたい。その一心で、ついにはNYへ!


黒田:先ほどはエクササイズを教えていただき、ありがとうございました! すごく気持ちよかったし、楽しかったです。そもそも、広瀬さんがキャンサーフィットネスを立ち上げたきっかけって何だったんですか?

広瀬:もともと身体を動かすのが好きだったんです。でも、乳がんになって、治療の後遺症や副作用から、身体が痺れて痛くて、思うように動かなくなってしまって……。日常生活に戻ったのに自分の身体は前と全然違う。どうやればこの辛い症状が楽になるのか、調べてもわからないし、リハビリは医療保険が使えない、整形外科でも診てもらえない、スポーツクラブには「何かあったら大変なので」と断られてしまう……。そこで、自分でなんとかしようと思って、抗がん剤治療中にスポーツの専門学校に通い始めたんです。

黒田:抗がん剤治療中に? すごい行動力! 

広瀬:若い学生さんたちに混じって必死で学んで身体を動かしていたら、みるみる体調が良くなっていったんです。運動は、術後の体力アップはもちろん、後遺症や副作用の辛さを緩和させる効果があるんだと身を持って感じましたね。

黒田:それで、スポーツインストラクターの資格を取って? 

広瀬:はい。ちょうどその頃、ニューヨークに「Moving For Life」という、がん患者のための運動教室があるのを雑誌で知ったんです。すぐに海を渡って、実際に見学させてもらったのですが、堅苦しさがまったくなくて、みんなすごく楽しそうに運動していて、「こんな世界があるんだ!」って衝撃を受けました。それで、このエクササイズプログラムを日本でも広めて、社会復帰を目指すがん患者さんの背中を押してあげられたらと思い、この活動を始めることにしました。

ヨガ、チア、リンパ浮腫ケアなど、プログラムは10種類以上。


黒田:「キャンサーフィットネス」には具体的にどんなプログラムがあるんですか?

広瀬:どんなきっかけでもいいから運動を始めてほしくて、術後の運動教室、ヨガピラティス、リンパ浮腫ケアエクササイズ、ウォーキング、チアダンス、エアロビクスなど10種類以上のプログラムがあります。各分野の専門家の講義を聞いて、身体や健康への理解を深める「ヘルスケアアカデミー」という勉強会も行なっています。
すべてのプログラムは、「がんのリハビリテーションガイドライン」(公益社団法人日本リハビリテーション医学会・がんリハビリテーションガイドライン策定委員会)に基づいてつくっています。

黒田:それは安心ですね。参加者数は今どのくらい?

広瀬登録者は約600人ですが、通ううちに体力がついて社会復帰し、大半の方は自然と“卒業”していくので、今通ってくるのは150人くらいでしょうか。

黒田:やっぱり女性が多いですか?

広瀬女性が圧倒的に多くて、そのうち7割は乳がん患者・経験者の方ですね。術後3日の方もいれば、10年経っている方もいますが、一番多いのは術後3カ月から1年くらいの方です。病院の体験教室がきっかけで来たり、ネットで調べて来たり、なかには家族に付き添われて来る方もいます。

インストラクターもがん経験者だから、気持ちに寄り添える。

黒田:初めて参加した方たちの感想は?

広瀬:みなさん、最初は少し不安そうだったり、恥ずかしそうだったりするんですが、エクササイズをした後は「すっごく楽しかった!」「本当に来てよかった!」って言ってくださいます。

黒田:今日体験して感じましたけど、音楽に合わせて身体を動かすって本当に楽しいですよね。

広瀬:それと、インストラクターを含めて、その場にいる全員ががん患者・経験者なので安心感もあると思います。「がんである自分を忘れることができる」「いい仲間に出会えてよかった」という声も多いです。

黒田:私も乳がん経験者なのでわかるのですが、手術をして元気になっても、たまに再発が不安になったり、気が滅入ったりすることがあるんですよね。それにエクササイズって家で一人でやってもなかなか続かない(笑)。こういう場に出かけて、仲間と一緒に運動して、たくさんしゃべって、気持ちの切り替えをすることってすごく大事だなって思います。

広瀬:ここは運動をする場でもあり、ピアサポートの場でもあるんです。興味深いのは、話していても全然グチが出ないこと。運動で発散しちゃうからでしょうね。いつも笑い声にあふれてます。

体力がない人も、動くのがこわい人も、自由に楽しめる場所。


黒田:一番人気のあるプログラムは……やっぱりヨガピラティスですか?

広瀬:それが意外にもチアダンスなんです! こんなに人気になるとは思いませんでした(笑)。今、メンバーも大勢になり、チアダンスチームも誕生し、色々ながん関係のイベントで踊っています。この春は、学生の公式のチアダンス全国大会にゲストで呼ばれ、皆さん頑張りました。

黒田:イベントの時に観たことがあります! みなさん、すごく楽しそうで、キラキラしてました。でも、がん患者さんのなかには体力や運動神経にまったく自信がない人もいると思うんです。そういう方でも参加できますか?


広瀬:もちろんです! 運動強度に応じてクラス分けもしているので、まずは自分の興味のあるものから気軽に始めていただきたいですね。受講前には毎回必ずご自身で体調チェックしていただき、エクササイズ中もインストラクターが一人ひとりに目を配り、「自分のペースでいいですよ。苦しかったら無理をしないで」と常に声がけするようにしています。ニューヨークの運動教室ではその辺に寝転がっている人もいるし、自分の好きな曲だけ参加する人もいるし、ハンバーガー食べている人もいるし(笑)、本当に自由な雰囲気なんです。だから、みなさんにも「好きにしていいですよ。ここは自由な場所だから」って伝えています。

黒田:がん患者や経験者にとって、“安心感”ってすごく重要な要素ですよね。病院の先生からは再発予防のために適度な運動をすすめられるけど、どこまで動かしていいかわからないし、手術の創があるからなんとなくこわくて腕が上げられないこともあるし。

広瀬恐怖心が可動域を狭めているということはよくありますね。参加者の方でも最初は「私、ここまでしか腕を上げられないんです」って不安そうなんだけど、みんなで楽しく運動していくと、帰る頃には「あれ? こんなに上がっちゃってる!」って驚く人が多いです。そういう意味ではメンタル的なケアもすごく大事だなと思います。

がんになっても人生は続く。動くことは生きること!


黒田:キャンサーフィットネスに興味を持った方が、参加するにはどうしたらいいですか?

広瀬:まずは、ウェブサイトから入会のお手続きをしていただきます。プログラムは予約制です。ウェブサイトから、気軽にご予約いただけます。入会金は2000円、受講料は、東京では、基本的に1クラス2000円です。(無料の時もあります。)

黒田:良心的な価格ですね。治療中は体調の優れない時もあるから、月額制だと使いきれないこともあるけど、都度払いなら無駄がないし、気軽に参加できますね。

広瀬:受講料を抑えることができたのは、ここ数年でキャンサーフィットネスの認知度が上がって、私たちの取り組みに協賛いただける企業が増えてきたからなんです。ありがたいですね。

黒田:私が乳がんの告知を受けたのが2009年ですが、ここ5年くらいで、社会のがんに対する意識って大きく変わってきましたよね。

広瀬:そうですね。“がんサバイバー”とか“がんリハビリテーション”といった言葉がクローズアップされるようになり、体験教室や講演依頼がすごく増えました。

黒田:がんとお金に対する問題もそうです。いかにがん患者・経験者のQOLを維持・向上していくかという点がクローズアップされているなと感じます。

広瀬:今年は、民間のスポーツクラブと提携してがん患者さん向けの運動教室をスタートしましたが、世の中の人に、がんになっても運動して体力を維持することはQOL向上のために大切であることを広めていきたいと考えています。最終的にはキャンサーフィットネスという言葉自体がなくなるくらい、あたり前のものになるとうれしいですね。

黒田:がんが再発しなくても他の病気にかかる可能性もあるし、予防のために運動習慣を身につけることってすごく大事だと思います。

広瀬:そうなんです。がんになっても、がんが治ってからも、私たちの人生はまだ何十年もある! いかに健康で楽しく、自分らしく暮らしていくかというのが大きなテーマだと思います。動くことは生きること! 身体を動かすことで心も動いて前向きになれますよ。

黒田:今日はありがとうございました!

広瀬:こちらこそ、ありがとうございました。次はぜひ、チアに挑戦しましょうね!

黒田:まずはストレッチから頑張ります(笑)!


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