HEALTHCARE : 健康
DATE : 2018.10.15
良性と悪性はどう診断される?乳がん検診でよく聞く「石灰化」について
乳がん検診のときによく使われる言葉のひとつに「石灰化」があります。「石灰化があるといわれたら、どうすればいいの?」と疑問に思ったり、心配になったりする方も多いでしょう。この記事では、石灰化の状態や判断方法など、気になることを医師の監修のもと解説します。
乳がんの石灰化とはどのような状態のこと?
写真提供:むらさき乳腺クリニック五反田
石灰化とは?
乳がん検診のマンモグラフィ検査でよく指摘される所見のひとつに「石灰化」があります。石灰化とは、カルシウム成分が沈着した状態のことをいいます。乳腺組織は乳汁という分泌物を産生する組織であることから、分泌物の中に含まれるカルシウム成分がマンモグラフィの画像に認められることがあるのです。この石灰化のほとんどは生理的な活動の中で生じるカルシウムの沈着であるため心配はいらないのですが、「石灰化がみられるので精密検査が必要」となるのは、乳がんと関連する石灰化もあるためです。石灰化はしこりとは違う?
乳がん検診では、石灰化のほかに「しこり」が見つかったといわれることがありますが、石灰化はしこりとは異なる、さらに小さい粒のことです。マンモグラフィの画像には、しこりはほかの細胞と異なる塊として映ります。一方、石灰化は輝度の高い真っ白な砂粒のようなものが点々と、あるいは連なって映るものです。しこりの良性・悪性の判断方法とは?
良性の石灰化とは
精密検査の結果、石灰化の約9割は、「乳腺症」や「乳腺炎」などが原因の「良性の石灰化」だと診断されます。良性の石灰化は、母乳が通る乳管や母乳を作る腺葉の分泌液に生じた沈殿物などによって形成されます。また、良性の石灰化の中に「のう胞症」という症状もあります。のう胞とは、乳管の中に液体がたまって袋の状態になったもので、女性の60%以上が持っているといわれます。妊娠や授乳期であるか否かに関係なく、生じたり消えたりします。
悪性の石灰化とは
石灰化そのものはがんではありませんが、がん細胞が増殖していくときに分泌物が産出されたり、がんの壊死に伴ったりすることで石灰化が生じることがあります。つまり、石灰化の部分は、がんが副産物を残しているということになります。石灰化のカテゴリーについて
石灰化した部分が良性か悪性かどうかについては、その石灰化の一粒ひと粒の形状と、広がっている範囲を総合的に診断して、カテゴリー1〜5に分類されます。カテゴリー1の場合は異常なしと判定され、カテゴリー5の場合は乳がんの疑いが高くなります。
明らかな良性はカテゴリー1とカテゴリー2です。この場合は精密検査の必要はありません。マンモグラフィで検査を受けた人の9割以上が良性と診断されます。
カテゴリー3であってもほとんどが良性ですが、悪性であることも否定できないことから、カテゴリー3以上になると精密検査が必要になります。
乳がんが強く疑われる場合にはカテゴリー5となります。
良性の石灰化が乳がんに進行する?
カテゴリー1や2の良性の場合でも、この石灰化が乳がんに進行することもあるかどうか、気になる方もいるでしょう。しかし、良性の疾患に伴う石灰化が乳がんになることはありません。乳がんと関係する石灰化は、良性の石灰化が進行してがん化するものではなく、まずがんが発生していて、それが原因で起こっている石灰化であることを理解しましょう。石灰化はマンモグラフィで発見できる
マンモグラフィが適している理由
乳房はやわらかい組織でできているために、一般的に用いられる肺や骨用のX線撮影では、乳房がはっきりと映りません。乳房専用マンモグラフィを用いることにより、脂肪や乳腺、そして石灰化やしこりを区別することができます。一方、触診やエコー(超音波)検査では石灰化や小さなしこりは見つけることができません。これらを発見できるのが、マンモグラフィ検査の特徴であるといえます。石灰化は良性である場合がほとんどですし、たとえ乳がんが発見されたとしても、石灰化の段階であれば早期発見・早期治療が可能です。
ただし、マンモグラフィは、乳腺が発達している若い人や授乳経験のない人の場合はX線画像が白くかすんでしまい、小さな石灰化を見つけることが難しくなってしまいます。
また、マンモグラフィはX線撮影であることから、少量ながら放射線被ばくをしてしまいます。妊娠している、あるいは妊娠の可能性のある人には適しませんので、検査の前にきちんと医師に伝えるようにしましょう。
吸引式針生検で詳細に検査
マンモグラフィによる検査で石灰化が見つかり、カテゴリー3以上の診断となった場合は、吸引式針生検という検査で精密検査を行うことになります。
吸引式針生検とは、いくつかある乳がん組織検査方法のひとつで、検査はマンモグラフィで撮影をしながら行います。まず画像で石灰化している位置を確認し、乳房に針を刺して組織を直接吸引したものを採取します。その取りだした石灰化した部分の乳腺組織を顕微鏡で詳しく観察し、乳がんであるかどうかを検査します。
組織検査には、外科的生検という乳房の一部を切開して調べる方法がありますが、吸引式針生検は4ミリ程度の針を刺して行うため、外科的生検に比べて、傷が小さくて済みます。縫合などの必要もないので、患者さんにとっては比較的負担の少ない検査であるといえるでしょう。
とはいえ、乳房に局所麻酔をしますし、太目の針を刺すことになりますので、検査に際しては医師による詳細な説明を受ける必要があります。
乳がん検診の石灰化がカルシウム成分であること、その9割が良性であることはおわかりいただけましたか?乳房の中の乳管には、さまざまな理由による沈殿物があり、マンモグラフィや吸引式針生検などで調べることができます。もし乳がんと関連していたとしても、早期発見できたことを前向きに捉えて、早期に治療開始することが大切です。
PROFILE
【監修】池田紫先生MURASAKI IKEDA
日本医科大学卒業後、昭和大学病院にて研鑽を積み、ブレストセンター設立にも携わる。2011年にはシンガポールに留学し、ホルモン剤や分子標的治療薬が効かない乳がんの病理特徴についての研究に従事。2018年、むらさき乳腺クリニック五反田を開院。昭和大学病院、およびその他の大学病院やがん専門病院、総合病院と連携し、納得のいく治療が受けられるトータルサポートをしている。
https://www.murasakibreastclinic.com/