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HEALTHCARE : 健康

DATE : 2019.02.14

下着、リハビリテーション、食事、仕事……乳がんの手術後の生活は手術前とどのように変わるのか

乳がんの手術を終えた後、どのような変化があるのでしょうか。手術を受けた側の腕に必要なリハビリテーションや、退院後の生活で気をつけておきたいポイントなどについて、日本乳癌学会乳腺専門医の監修のもと解説します。

監修:湘南記念病院乳がんセンターセンター長 土井卓子先生  

ブラジャー、入浴、リンパ浮腫(ふしゅ)……手術後に気をつけたいこと

手術後は、まずは体力の回復と再発の予防を第一に考えます。ここではまず、ブラジャーの選び方や入浴の仕方に加え、乳がんの手術後に起こりやすいリンパ浮腫についてもお伝えします。


ブラジャーは体への負担が少ないものを選びましょう

下着を最適なものへつけ替えることで、心身への負担を軽くできます。


手術直後や放射線治療中

前開きのブラジャーが適しています。着脱が楽で、術部を大きく覆い保護する、ゆったりとしたものを選びましょう。手術した側にはガーゼや小さな軽いパッドをあてると痛みが和らぐでしょう。
手術後の痛みが引くまでは、手術あとやワキ・アンダーバストや背中も締めつけすぎないようにします。負担を感じず、術後の胸のラインに合うようであれば、ノンワイヤーのソフトブラジャーや、一般的なカップつき下着などを着用しても構いません。

術後1~2カ月して、手術あとが落ち着いたら

乳がん手術後専用ブラジャーを検討しましょう。胸元やワキをカバーし、カップ部分には軽量のパッドのほか、重みのあるシリコン製のパッドを入れることもできるようになっています。適度な重みのあるパッドは、見た目を調整するだけでなく、ブラジャーがずり上がることを防いだり、体のバランスを整えて姿勢を正したりする役割もあります。

乳房再建術を受ける場合

人工乳房を使った再建の初期に適したものや、再建を終えてすぐから使用できるものなどが販売されています。術部の状態に合わせて検討すると良いでしょう。


温泉に入るときや、子どもと一緒に入浴する場合

手術あとをカバーする入浴着があるので、必要に応じて検討しましょう。通常のバスタオルとは異なり、着衣のまま入浴しても衛生面にトラブルがないよう設計されています。

乳房を温存した人の場合

手持ちのブラジャーが使えることもあります。パッドを入れた方が安定するため、パッドがしっかりおさまるフルカップのものが良いでしょう。ワイヤーが入っていても使えますが、手術あとが胸の下部にある場合は、少しずつ慣らしながら使用してください。


入浴時に違和感があれば、医療スタッフに相談しましょう

手術後、リンパ液を体外に出す管(ドレーン)が抜けて退院するころには、シャワーや入浴で手術あとを濡らしても大丈夫です。手術あとやその周辺の赤みや腫れは、時間経過とともに少しずつ引いていきます。
もしなにか液体(浸出液)が出てきたり、赤く腫れたりといったことがあれば、自己判断せず医師や看護師に相談してください。


リンパ節の切除を行った場合は、リンパ浮腫に注意


手術で「腋窩(えきか)リンパ節郭清(かくせい)(決まった範囲のリンパ節を全部切除すること)」を行った場合、手先からワキに向けて、体液を体の中心に戻すように流れているリンパ液の流れが滞りやすくなります。術後しばらく、手術した側の肩や胸や背中が腫れぼったくなることがありますが、これは手術自体の影響であることが多いです。

しかし腕回りが10mm以上増えるようなら、リンパ浮腫だと考えられます。腕がむくんだように腫れ、だるさや痛みを伴うこともあります。術後数年経ってから症状が現れることも少なくありません。
また、手術あとから細菌感染が起こると、浮腫の悪化や新たな浮腫の発症を引き起こす可能性があるので、注意が必要です。


[気をつけること]

手術を行った側の腕には、以下のことをしないように注意します。過度な力でのマッサージや、あまり重いものを長時間持ったり、窮屈なものを身に着けたりすることも避けましょう。ゆったりとした、腕が動かしやすい服を選ぶことが大切です。

行ってはならないこと

・鍼灸や、強い力でのマッサージ
・美容目的のリンパドレナージュ

避けた方が良いこと

・手術した側の腕を締めつけること(血圧測定を含む)
・重労働
・注射
・きつい指輪や腕時計の着用
・補正下着のような締めつけの強い下着の着用
・窮屈な服装


また、リンパの流れが悪いと、細菌が侵入した場合そこにとどまりやすくなってリンパ管炎につながります。やけどや虫刺され、ささくれ、深爪などが細菌感染の原因になるので、小さな傷を避けるようにしましょう。


[治療法]

手や腕を適度な圧で圧迫することによってリンパ液の流れを促す「弾性着衣(スリーブやグローブ)」「弾性包帯」を使用する圧迫療法、圧迫療法をしている状態での運動療法や専門のセラピストによるリンパドレナージュ、保湿クリームなどによるスキンケアを組み合わせて行います。

自己判断はせず、まずは担当の医師や看護師に相談しましょう。必要に応じて「リンパ浮腫外来」の受診も検討します。
 

手術後のリハビリテーション

乳がんの手術後は、手術した側の腕が上がりにくくなることがあります。手術の方法や切除した範囲によって、腕の上がりにくさは異なりますが、特に腋窩リンパ節郭清を受けた人は、リンパ液の流れが悪くなって傷がつっぱり、腕や肩を動かさないでいることで、後遺症として肩関節の動きに制限ができてしまうことがあります(拘縮(こうしゅく))。

後遺症を残さないためだけでなく、リンパ浮腫の予防・改善のためにも、なるべく早い時期から体を動かすリハビリテーションが必要です。

指やひじの曲げ伸ばし、やわらかいボールやスポンジなどを握る運動などは手術当日から行えます。
※無理をしないように医師の指示に従ってください


リンパ液を体外に出す管(ドレーン)が抜けたら少しずつ本格的なリハビリテーションを開始します。一例をご紹介します。

1.腕を引く運動

手術していない側の手で手術した側の手首をつかみ、健康な方の肩に向けて引き上げます。

2.腰&肩タッチ

まっすぐに立って腰に両手をあて、その後、両手を肩に置きます。この動きを5~10回、1日2~3セット行いましょう。

3.壁を使った運動

術後2週間ほど経ったら、壁を使ったリハビリテーションを始めましょう。手術していない側の手で届く壁の一番高い位置に印をつけ、手術した側の手をその印に向かって壁に沿って、勢いをつけずにじわじわと腕を伸ばしてみます。

4.逆の耳タッチ

手術した側の腕を上げて、反対側の耳を触り、そのまま10秒くらいキープします。腕の可動域を戻すのに有効です。


手術後のリハビリテーションは、3カ月以上継続して行った方が、術後半年の肩関節の動きが良く、リンパ浮腫が増えにくい傾向にあります。腕が上がるようになってからも、術後1~2年は意識的にリハビリテーションに取り組んでいきましょう。

一方、腋窩リンパ節郭清を行わなかった場合は腕や肩の動きの制限やリンパ浮腫の可能性は少ないと考えられるため、基本的にはリハビリテーションの必要はありません。ただし、まれに拘縮やリンパ浮腫が起きることもあるので、日常生活のなかに意識的にリハビリテーションの動きを取り入れると良いでしょう。
 

手術を乗り越えた、退院後の生活と仕事について

手術を終えて退院したあと、食事・運動・仕事などで気をつけておきたいポイントを説明します。


術後どれくらいで退院できる?

手術の方法や施設によって異なりますが、乳がん手術のための入院期間は短くなっていて、4~10日くらいが一般的です。退院するときには、軽い家事ができる程度には回復しています。多くの場合、術後は外来で放射線治療や薬物治療を受けることになるので、仕事をしている人はそのスケジュールも踏まえて休職の期間を検討しましょう。



食事で気をつけることは?

治療後に再発を防ぐ食生活については関心の高いテーマですが、再発リスクを下げることを示す医学的な報告は、肥満回避以外にありません。積極的に食生活を変えることをすすめる研究結果はないため、神経質になりすぎないことも大切です。
一方、再発とともに、治療していない側の乳房に新たに発症するかもしれない乳がんのリスクも重要な問題。がん発症のリスクになる喫煙や過量な飲酒習慣などは改善しておくことが大切です。


運動で気をつけることは?


乳がんと診断された後に適度な運動を行う女性は、そうでない女性に比べて再発や死亡リスクが低くなることが分かっています。また、適度な運動は身体面でも心理面でも社会面でも良い状態を保ちやすいということが、いくつもの研究で明らかになってきました。

おすすめは、無理のない範囲で少し汗ばむ程度のウォーキングや軽いジョギング。週に2~3回、30分~1時間程度を心がけましょう。
手術を受けた側の腕に重みや遠心力や強い力が加わるようなスポーツ(バレーボールやボーリングなど)をしたい場合は、担当医師や看護師に事前に相談してください。


仕事で気をつけることは?

医師から特別の指示がなければ、自分の体調に合わせてそれまで通り仕事に復帰して差し支えありません。手術前後の薬物治療や放射線治療は、入院はせずに通院で行いますので、仕事をしながら行うことができます。数年にわたって治療を続けるケースもあるため、仕事のペースについては、医療スタッフに相談することはもちろん、職場の人たちに理解を求めることも必要です。
治療中、療養中は体調がすぐれないときもあります。そういう場合でも無理なく働ける環境づくりをするため、利用可能な福利厚生制度なども確認しておくと良いでしょう。


痛みはどれくらいで和らぐ?

手術による痛みは、多くの場合術後数カ月で和らぎますが、術後数年以上が経っても痛みが消えないこともあります。

厚生労働省によるアンケートでは、乳がんの手術を経験した患者さん(手術後の平均期間8.8年/再発なし)976人のうち約21%が「手術後の慢性的な痛みに悩んでいる」と回答しています。これは「乳房切除後疼痛(とうつう)症候群(PMPS)」と呼ばれていて、手術した側の乳房やワキ、上腕の内側にヒリヒリとした痛みを感じます。ひどい場合は、ブラジャーが着けられないなど、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。

こういった症状が起こる原因は分かっていませんが、治療による腕の神経の損傷が関与しているのではないかと考えられています。対処法としては薬剤(鎮痛薬、抗うつ薬、抗けいれん薬 など)を使用することが多いものの、現時点では有効性が証明された薬剤はないため、副作用に注意しながら慎重に服用します。


手術後はリハビリテーションなどを行うだけでなく、家族、職場の理解を得ることも大変重要です。困ったことがあれば、遠慮なく、医師や看護師に相談しましょう。

PROFILE

【監修】土井卓子先生TAKAKO DOI

湘南記念病院乳がんセンターセンター長
横浜市立大学医学部卒業後、医師として一貫して乳腺外科分野で経験を積み、乳がん及び乳腺分野での治療に従事。湘南記念病院乳がんセンター長として、医療者だけでなく体験者コーディネーターなどを組み込んだ乳がん治療チームを組織、形成外科と連携した乳房再建などの総合的な乳腺治療を目指す。横浜市立大学医学部臨床教授、日本乳癌学会乳腺専門医、日本外科学会専門医、日本外科学会指導医、日本消化器外科学会認定医、日本消化器病学会専門医、マンモグラフィ読影認定医。
http://www.syonankinenhp.or.jp/nyugan/

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