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DATE : 2019.02.21

抗がん剤を用いた乳がんの治療とは

乳がんにおける薬物療法について

乳がんの薬物治療と一口にいっても、がんのタイプと目的によって治療内容は異なります。具体的にどんな治療が行われるのか、みていきましょう。


薬物療法とは

乳がんの薬物療法には、
・手術前に乳がんを小さくする 
・手術後に再発や転移を予防する
などの目的があります。
初めてのがんの治療ではがんの根絶を目的にしているのに対して、手術で治療することが難しくなった進行がんや、乳がんの転移が起こっている場合は、QOLQuality of Life:生活の質)の維持が目的になります。


乳がん治療における薬物療法の種類


乳がんの薬物治療は大きく「抗がん剤治療(化学療法)」「ホルモン療法」「分子標的薬治療」の3つに分けられます。それぞれの治療の概要と効果について説明していきます。


[抗がん剤治療(化学療法)]

抗がん剤は乳がんの進行に応じて「術前化学療法」「術後化学療法」「遠隔転移に対する化学療法」があります。


術前化学療法

術前に抗がん剤の効果が期待できることが分かっており、かつ術後に抗がん剤が必要と分かっている場合にのみ、術後の代わりに術前に行うことがあります。しこりが大きい場合や、そのままでは手術が困難な進行乳がん、炎症性乳がんなどで行われます。しこりが大きいために乳房温存手術が困難ながんを小さくして、乳房温存手術ができるようにする効果も期待できます。
使用する薬剤は術後に使用するものと同じで、再発率を下げる効果は術前に使っても術後に使っても変わりません。術前化学療法により、70~90%の乳がんが小さくなり、よく効いた場合は再発の危険性も低くなります。ただし、もともとがんの広がりが小さい場合には術前化学療法を行うメリットは少ないことがあります。

術後化学療法

治療を行うことで再発率と死亡率が低下します。乳がんに対する抗がん剤は1種類ではなく数種類を同時に使用することによって効果が最大になることが臨床研究の結果明らかになっています。
術後化学療法を行うかどうかは、乳がんのタイプと再発リスクによって判断されます。

遠隔転移に対する化学療法

転移した場所が肺や肝臓、骨などであっても乳がんに効果のある抗がん剤を使用します。抗がん剤によってがんの進行を抑え、症状を緩和させることで延命やQOLの改善が期待できます。基本的には1種類の抗がん剤を使用し、できるだけ副作用のないように注意しながら行います。

化学療法で使う抗がん剤には、飲み薬と点滴があります。点滴は、術前化学療法と術後化学療法の場合は4~30回、遠隔転移の場合は長期にわたって行われます。


[ホルモン療法]

乳がんの約6~7割は、女性ホルモンの刺激によってがん細胞が増殖するタイプ(ホルモン受容体陽性)です。このタイプの乳がんには、ホルモン療法が有効です。ホルモン療法を手術後の初期治療として行うことで再発や転移が半分ほどに減り、進行乳がんや再発の場合は生命予後を改善します。 閉経前と閉経後では女性ホルモンの分泌経路が異なるので、使用する薬剤もそれぞれに合ったものを選択します。

閉経前

抗エストロゲン薬を5年服用すると、再発の危険性が半分近くに減ります。続けて服用することで再発を減らす可能性が期待できる場合には、さらに5年間(計10年間)の服用を検討します。場合によっては卵巣で女性ホルモンがつくられるのを抑えるためにLH-RHアゴニスト製剤の皮下注射を併用します。

閉経後

アロマターゼ阻害薬もしくは抗エストロゲン薬を5年間使用し、場合によっては10年間の服用を検討します。再発の危険性を改善する効果があります。


[分子標的薬治療]

がん細胞に含まれる特有の分子を標的にして、狙い撃ちするのが分子標的薬です。正常な細胞に影響を与えることのない、がん増殖抑制効果が期待されています。乳がんのサブタイプがHER2陽性の人にのみ効果がある治療法で、乳がんになった人のおよそ15~20%が対象です。

手術前後に分子標的薬治療を行う場合は再発予防が目的で、1週間に1回もしくは3週間に1回の点滴を1年間行います。進行乳がんや乳がんの再発の場合でもHER2陽性と診断を受けた人はこの治療の対象となり、がんの進行を遅らせたり、QOLを改善したりする目的で、治療が行われます。

 

乳がんにおいて、抗がん剤治療が選択されるケースとは

乳がんにはさまざまなタイプがありますが、「浸潤がん」と診断された場合、画像検査では見つからないような小さな転移が血液やリンパの流れに乗って他の臓器に起こっている可能性があり(微小転移)、その微小転移を根絶することが術後の化学療法の目的です。治療によって、再発率を下げることができます。すでに他の臓器への転移が認められる場合や再発した場合は進行を抑えたり、症状を緩和したりすることが目的となります。
デメリットとして挙げられるのは副作用。副作用の詳細について後ほどお伝えします。

抗がん剤治療を行うかどうかは乳がんのステージとサブタイプによって判断されます。
基本的には
・ステージ:0以外の場合
・サブタイプ:ルミナルAタイプ以外の場合
で化学療法が行われます。ルミナルAタイプでも、リンパ節転移の数が多い場合などは化学療法が必要になることもあります。


治療にかかるおおよその費用については、下表の通りです(病期や体表面積によって費用は変わります)。術前・術後の化学療法では複数の薬を組み合わせて治療を行います。組み合わせる薬の頭文字を使って「AC療法」「TC療法」というように名前がついています。


※2018年4月現在
※身長160cm、体重55kgの人の場合
※AC療法には制吐剤の費用も含まれます

 

乳がんの薬物療法(抗がん剤治療など)による副作用について

薬物療法ではがん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を与えるため、いろいろな副作用が起こります。副作用が出なかったからといってがんに効いていないということはなく、逆に副作用が強く出たからといってがんに効果があるということでもありません。また、副作用を抑える薬の開発や抗がん剤の投与方法の工夫により、つらさは軽減されつつあります。

[抗がん剤治療の副作用]

抗がん剤は粘膜や毛母細胞(毛髪をつくる細胞)、血液といった、細胞分裂が活発な臓器への影響が大きく、主な副作用としては吐き気や嘔吐、脱毛、白血球数の減少、下痢、口内炎、しびれ、爪の異常(黒くなる、割れやすくなる)、皮膚の発疹などがあります。
吐き気に対しては、抗がん剤投与の前に予防的に吐き止めの薬を使ったり、制吐剤が処方されたりします。脱毛についてはかつら(ウイッグ)やつけ毛、帽子やバンダナを使うことで対処します。眉やまつげも抜ける場合は、ウォータープルーフのアイブローやメガネ、つけまつげなどを検討すると良いでしょう。治療が終われば髪や眉、まつげは生えてきます。

[ホルモン療法の副作用]

ホルモン療法の主な副作用としては、ホットフラッシュ(ほてり、のぼせ)があります。更年期の症状として知られていますが、これと同じものです。突然暑さを感じたり、汗をかいたり顔が赤くなったりします。動悸や睡眠障害を伴うこともあります。
ホルモン療法によるホットフラッシュは、軽いものを含めると半数以上の人にあらわれますが、次第に軽減することが多いので、しばらくは経過をみましょう。仕事や日常生活に支障をきたす場合は、薬で症状を緩和することができるので、医師に相談してください。
他には生殖器の症状(出血、分泌物の増加、腟の乾燥、腟炎 など)、骨密度の低下や関節のこわばり・痛みなどが副作用としてあらわれることがあります。

[分子標的薬治療の副作用]

分子標的薬は正常な細胞に影響を与えずがん細胞を攻撃することが期待されていますが、それでも副作用は起こります。100人に2~4人くらいの割合で心臓機能の低下や呼吸器障害があります。また、ほとんどの場合抗がん剤と併用するので、抗がん剤の副作用を避けることは困難です。


がんの性質や体の状態によって、治療に使う薬の種類や投与期間は異なります。薬品名などの詳細は日本乳癌学会が出している患者さん向けのガイドラインなども併せて確認してみてください。副作用の出方には個人差があるので、不安に感じることがあれば、どんな小さなことでも医療スタッフに相談しましょう。

PROFILE

【監修】石黒淳子先生JUNKO ISHIGURO

じゅんこ乳腺クリニック院長
大学在学中に友人が乳がんになったことをきっかけに乳腺科医を志し、がん・感染症センター東京都立駒込病院乳腺外科、愛知県がんセンター中央病院乳腺科医長などを経て2018年より現職。専門領域は乳がんの診断、治療、乳房再建を伴う手術と家族性腫瘍。クリニックは女性が入りやすいことがコンセプトでスタッフ全員が女性。不安を何でも話せる雰囲気づくりを心がけている。日本乳癌学会乳腺専門医、日本外科学会外科専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本乳がん検診精度管理中央機構検診マンモグラフィ読影認定医、乳房超音波読影認定医、家族性腫瘍コーディネーター。
http://junko-nyusen.com/index.html

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