HEALTHCARE : 健康
DATE : 2019.02.21
乳がんの手術内容や費用を知って自分にあった選択を考えてみよう
乳がんと診断されたら、その乳がんの性質をよく調べ、適切な治療方法を選択します。ここでは乳がんの治療で行われる手術について、どんな種類があるのか、どれくらいの費用がかかるのか、また、手術も含めた最近の治療方法について、日本乳癌学会乳腺専門医の監修のもと、解説していきます。
乳がん手術の種類と特徴
乳がんのステージおよびサブタイプ別のスタンダードな治療方法は、上の表の通りです。治療は大きく分けて局所療法(手術・放射線)と全身療法(薬物)の2通りがあり、それをステージとサブタイプによって組み合わせて行います。
ここでは、手術について紹介していきます。放射線治療と薬物(抗がん剤)治療についてはそれぞれのページをご覧ください。
・乳がん手術の基本
局所療法の中心は、外科的手術。乳房から離れた臓器に明らかな転移がみられる場合(ステージⅣ)でなければ、手術でがんをすべて取り除くことを目指すのが一般的です。通常、乳がんの手術は、乳房の切除とわきのリンパ節の切除の組み合わせで行われます。乳房の切除には、がんとその周囲だけを切除し乳房を残す「乳房温存手術」と、がんのある側の乳房全体を切除する「乳房切除手術」があります。
乳房温存術、乳房切除術いずれの場合でも、わき下リンパ節の転移確認が必要です。その方法には、決まった範囲のリンパ節を全部切除する「腋窩(えきか)リンパ節郭清(かくせい)」と、乳がんが転移するときに最初に転移するセンチネルリンパ節というリンパ節だけを取って転移の有無を調べる「センチネルリンパ節生検」があります。
術前の検査でリンパ節に転移していると分かれば前者を、実際の組織を調べてみないとはっきり分からない場合は後者を行います。
[乳房温存手術]
乳房温存手術は、乳房の一部分のみを切除して、できるだけ良いかたちの乳房を残す手術です。最近は手術前にがんの広がりをくわしく調べることで、切除する範囲を狭く、手術痕も小さくすることができるようになってきました。しこりのある場所や大きさ、もともとの乳房の大きさなどによって制限がありますが、医師に手術痕がどこにつくか、ある程度の希望を伝えることが可能です(ブラジャーに隠れるように切ってほしい、わきの下から切ってほしい、乳房の下を切ってほしい、乳輪に沿って切ってほしい、谷間に手術痕をつけないでほしい、など)。医師は、手術を受ける本人の希望と、がんの状態をふまえて皮膚を切る位置を考えます。
この手術が可能なのは、原則としてしこりの直径が3cm以下で、なおかつ画像診断(マンモグラフィ、超音波、MRI)で病巣の広がりが狭い場合とされています。
知っておきたいのは、乳房温存といっても、手術前とまったく同じ乳房が残せるわけではないということ。乳房のかたちが大きく変わる場合もあります。また、乳房温存を選択した場合、手術のあとは放射線治療がセットで行われます。乳房に残っているかもしれない小さながん細胞を根絶し、局所再発率を低下させるためです。
乳房温存手術では、自分の乳房が残せるメリットがある一方で、
・術後の放射線治療が必要
・部分切除した組織をくわしく調べた結果、温存した乳房にまだ多くのがん細胞が残っていると予想される場合には、追加切除や乳房切除などの再手術を行う可能性がある
・温存した乳房内でがんが再発する「温存乳房内再発」の可能性がある
などのデメリットもあります。
[乳房切除手術]
乳房温存手術の適応条件に当てはまらない場合や、患者さん自身が希望した場合は、乳房切除手術を行います。大胸筋と小胸筋を残して乳頭、乳輪、乳房のふくらみのすべてを切除する方法です。手術後は乳房のふくらみがなくなり、真ん中近くから横あるいはわきの下に向けて少し斜めの手術痕が残ることになります。 ボリュームのある乳房を切除した場合、左右の乳房のバランスが崩れて肩こりや脊椎側彎症(背骨が左右に曲がってしまうこと)が起きることがありますが、重さの左右差を補正するパッドや下着を着用することで調整可能です。乳房をすべて切除するので、同じ乳房でがんが再発する可能性はとても小さくなります。また、術後に放射線治療を行うことはまれなので、妊娠中など、放射線治療が受けられない場合にもこちらを選択します。
もとの乳房は切除しますが、現在は乳房再建によって自然に近い乳房を作れるようになってきました。乳房の再建を希望する場合、手術の際に皮膚や乳頭を残して中の組織を取り除くこともあります。くわしくは再建のページをご覧ください。
乳がんの手術費用について
治療にかかる費用は治療の内容や組み合わせによって異なります。ここでは一例をご紹介しますが、自分が受ける治療の内容を医師に確認し、事前に治療費をおおまかに把握しておくと安心です。
[入院費(食事代、差額ベッド代、その他)]
乳がんの手術では、入院が必要になります。入院には治療にかかる医療費のほか、公的保険の適用外である食事代や差額ベッド代がかかります。食事代は1食あたり460円、1日あたり1,380円が自己負担(食事量療養標準負担額)となります。
※出典:厚生労働省「平成28年4月から 入院時の食費の負担額が変わります」
差額ベッド代については、希望する部屋によって費用が異なります。
「1室病床数が4床以下」など、いくつかの条件を満たす場合、差額ベッド代がかかります。部屋別の1日あたり差額ベッド代の平均金額は以下の通りです。
・1人部屋 7,797円/日
・2人部屋 3,087円/日
・3人部屋 2,800円/日
・4人部屋 2,407円/日
※ 出典:厚生労働省「主な選定療養に係る報告状況」(平成28年7月1日現在)
その他、パジャマやシャンプーなどの日用品、TV視聴にかかる費用なども必要になります。
[医療費]
乳がんの治療における、おおまかな治療費の目安は以下の通りです。入院期間は医療機関や手術の内容によって異なりますが、乳房温存手術+センチネルリンパ節生検の場合は7日間、乳房切除手術+腋窩リンパ節郭清の場合は14日間が平均的です。
最近の乳がん手術や治療について
乳がんになる人は世界中で増えているため、治療方法についても日々研究が行われています。最近の傾向や、新たな治療方法について紹介します。
・乳がん手術に関する最近の考え方
近年は乳房のふくらみを取り戻す「乳房再建手術」に保険が適用されるようになりました。「乳房再建手術」を受けやすくなったため、無理にもとの乳房を残そうとする人は少なくなりつつあります。一方増えているのが、乳房の皮膚や乳頭・乳輪を残して組織を切除し、乳がんの手術と乳房再建を同時に行う方法。この場合、残した乳頭・乳輪の血流が悪いと壊死を起こしてしまうケースもあるため、医師と相談して手術方法を決めてください。
・最近の手術や治療
どうしても切除したくないという方のため、以下の治療も研究されています。しかし、まだ標準治療とは言えない治療であり、現在の標準治療である手術と比較した試験やデータはまだ不十分です。[内視鏡手術(鏡視下手術)]
内視鏡手術は、腹部の手術で広く用いられている方法です。皮膚を数か所、数センチ程度小さく切開し、そこからメスやレンズがついた管を挿入して手術するもので、体への負担が少ないというメリットがあります。これを乳がんの手術方法として用いている施設があり、保険診療の範囲で受けることができます。
ただ、通常の手術に比べて時間がかかることや、乳房温存手術の場合はもともと体への負担がそれほど大きくないことなどから、普及には至っていません。再発リスクなどのデータもまだ不足していますので、内視鏡手術を受ける場合には、習熟した医師のもとで、メリットとデメリットを理解した上で検討しましょう。
[低侵襲治療(ラジオ波焼灼療法、FUS:集束超音波療法)]
ラジオ波焼灼療法は、病巣に針を刺して、その先から電磁波を出し熱でがん細胞を死滅させる方法です。FUS(集束超音波療法)は、MRI検査で認識されたがんを狙って超音波のエネルギーを集中させてがんを焼き切ってしまう方法です。これらは患部にメスを入れずに治療を行う試みで、「低侵襲(しんしゅう)治療」とよばれています。一部の施設で導入されていますが、患者さんの同意を得て行う臨床試験(治験)の段階であり、標準的な乳がん治療とはいえません。保険診療の対象ではないので、これらの治療を希望する場合はデメリットも十分考慮して、検討する必要があります。
乳がんの進行度やタイプによって治療法は異なり、本人の希望次第で治療内容が選択できる場合もあります。自分は乳房をどうしたいのか、医療スタッフなどとよく話し合って納得できる方法を選択しましょう。
PROFILE
【監修】石黒淳子先生JUNKO ISHIGURO
大学在学中に友人が乳がんになったことをきっかけに乳腺科医を志し、がん・感染症センター東京都立駒込病院乳腺外科、愛知県がんセンター中央病院乳腺科医長などを経て2018年より現職。専門領域は乳がんの診断、治療、乳房再建を伴う手術と家族性腫瘍。クリニックは女性が入りやすいことがコンセプトでスタッフ全員が女性。不安を何でも話せる雰囲気づくりを心がけている。日本乳癌学会乳腺専門医、日本外科学会外科専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本乳がん検診精度管理中央機構検診マンモグラフィ読影認定医、乳房超音波読影認定医、家族性腫瘍コーディネーター。
http://junko-nyusen.com/index.html